
前回の記事「EU域外の化粧品ブランドにとって、規制コンサルタントを責任者(RP)に任命することが賢明な決断である理由」では、販売代理店を責任者(RP)に指名することのリスクについて解説しました。
今回は、理論から実践へと話を進めたいと思います。以下は、販売代理店が責任者(RP)を兼務していたために問題が発生し、その結果として当社へ相談にいらしたブランド様における実例のご紹介です。
事例1:規制モニタリングの欠如
状況
ある化粧品ブランドは、販売代理店の規制対応のあり方に懸念を抱き、当社にご相談いただきました。規制関連において対応スピードの悪さにご不満をお持ちだったことから、RPを現在の販売代理店から当社に移行を希望されました。
判明した事実
RPの引き継ぎプロセスの一環として、当該ブランドの製品情報ファイル(PIF)の全面的な監査を実施しました。その結果、重大なコンプライアンス上の不備が明らかになりました。ある製品には、EU化粧品規制の下で数年前から使用が禁止されていた成分が含まれていたのです。前の責任者(RP)は、この規制について明らかに指摘も対応もしていなかったようです。他にも、問題があり見直しが必要な成分がいくつか特定されました。
これは、欧州側の販売代理店が規制モニタリングを継続的なコンプライアンス業務として実施していなかったことで生じた典型例です。EUの化粧品規制は絶えず改定されており、その動向を積極的に追っていないRPが担当していると、誰も気づかないままブランドが何年もリスクを抱え続けることになりかねません — 査察で発覚するか、さらに悪いケースでは消費者からの苦情によって初めて表面化するのです。
当社の対応
- 直ちにクライアントに対し、禁止成分の使用中止を助言
- 必要に応じて配合を見直し、製品が規制に準拠するようブランドを指導
- 現在のEU要件に沿った、包括的な化粧品安全性評価(CPSR)を実施
- 全製品を見直し、すべての製品を最新の規制基準に適合
結果
幸いにも、当社が介入した時点では、当該ブランドはまだ市場監視監査の対象として選定されていませんでした。これにより、問題が規制当局による措置へとエスカレートする前に、先手を打って解決することができました。
もし状況が異なっていた場合、当該ブランドは以下の事態に直面していた可能性があります:
- EU全域での製品リコール
- 各国当局による金銭的制裁
- 是正措置の実施期間中の販売停止
- ブランドの評判や消費者の信頼に対する長期的なダメージ
考察
責任者(RP)の業務は、製品情報ファイル(PIF)の提出で終わるわけではありません。規則1223/2009は「常に変わる枠組み」であり、成分規制、表示規則、安全要件は絶えず変化しています。そのため、貴社に代わってEU規制動向を注視する責任者 - RPが不可欠です。販売業者が副次的な業務としてRPの役割を担う場合、規制のモニタリングはしばしば見落とされがちです。ブランド側がそれに気付いた時には、すでに何年もリスクにさらされていたという可能性もあります。
事例2:ディストリビューターの都合に合わせた英語のみの表示ラベル
状況
欧州には、製品ラベルは英語表示のみにするよう助言を行うディストリビューターも存在します。表面的には、大変効率良く聞こえるかもしれません。英語のみのラベルであれば、欧州の加盟国ごとに異なる言語ラベルを作成する手間をかけずに、同じ在庫をEUの複数の国間で販売することができるため、ディストリビューターにとっても、またブランド側にも都合が良いです。
しかし、販売代理店が明確に説明しなかったのは、この「利便性」がコンプライアンスを犠牲にして成り立っているという点でした。規則1223/2009に基づき、化粧品ラベルには、製品が販売される市場の公用語で必須情報を記載しなければなりません。言語要件は任意でも交渉の余地があるものでもなく、査察において最も頻繁にチェックされる項目の一つです。
考察
この事例は、見過ごされがちな利益相反を浮き彫りにしています。すなわち、販売代理店のアドバイスは、ブランドのコンプライアンスを維持することではなく、自社の運営にとって最も容易で収益性の高い方法に基づいて当然ながら形成されるものです。言語表示規則は、消費者が製品情報を理解する権利を保護するために存在しており、表示ラベルのコンプライアンス違反は当局が摘発しやすい違反事項の一つです。
事例 3:安全性評価を一切実施せず行うCPNP届け出
状況
あるEUの販売代理店は、ブランドに対し、CPNP(化粧品製品届出ポータル)に製品を届け出さえすれば販売可能であると助言しました。同じような助言をしているディストリビューターは多いという印象を受けています。化粧品安全性報告書(CPSR)も、製品情報ファイル(PIF)も、ラベルのコンプライアンスチェックも一切行わずに CPNPへの届け出だけを行う対応です。
なぜこれが深刻な問題なのか
CPNPへの届け出は、コンプライアンスプロセス全体におけるごく一部の届け出手続きに過ぎず、その代わりとなるものではありません。CPSRの作成、PIFの作成、およびラベルの適合確認を省略することは、以下のことを意味します:
- 製品の安全性は、有資格の安全性評価者(セーフティアセッサー)によって実際に評価または確認されたことがない
- 当局から要求された場合、コンプライアンスを証明する文書が存在しない
- 禁止または制限されている成分が含まれている可能性があり、誰もその事実を把握していない
- 義務付けられている公用語でのラベル記載情報が完全に欠落している可能性がある
つまり、そのブランドはCPNP届け出番号を取得していたものの、製品が安全であることや販売が合法であるという実質的な保証はなかったのです。
リスク
これらの製品が市場査察の対象となり、当局が禁止成分や不適合な表示を発見した場合、そのブランドは製品の回収または市場からの撤去を命じられる可能性があり、それに伴い、経済的損失、規制当局による精査、ブランドの信頼性の低下といった、より広範な影響を受けることになります。
考察
CPNPへの届け出は、しばしば「コンプライアンスを満たしている」ことと混同されがちですが、実際には、数あるプロセスにおける単なる一つのチェック項目に過ぎません。販売代理店は、届け出要件の形式的な要件を満たしている一方で、製品そのもの、そしてそれを使用する消費者 の安全を実際に守るための本質的な要素を無視している可能性があります。本来の責任者(RP)は、CPSR、PIF、およびEU規制準拠のラベルを、任意の追加事項ではなく、譲れない前提条件として扱います。
まとめ
これらの事例は、私たちがよく目にする傾向を浮き彫りにしています。すなわち、販売代理店は販売や市場参入のプロではあっても、EUの化粧品規制の複雑な要件についてはエキスパートではないということです。責任者(RP)の役割が中核的な責務ではなく、単なる「チェックリスト」として扱われると、そのリスクを背負わされるのはブランド側になってしまいます。
現在の責任者(RP)体制において、PIF(製品情報ファイル)に実際に何が記載されているのか、あるいは製品が依然として最新のEU要件を満たしているのかについて不確実性がある場合は、規制対応の体制について見直しが必要かもしれません。
貴社のブランド、製品、そして貴社のお客様を守るために、専任のResponsible Person(RP)がどのような役割を果たせるのか。問題が発生する前に、ぜひ当社へご相談ください。


