欧州委員会による新たな化粧品成分の禁止

欧州連合(EU)は、おそらく世界で最も厳しく保護的な化粧品の法律を有しています。化粧品に用いられる成分は法律で規制されており、安全性に疑問のある成分は、欧州委員会の消費者安全科学委員会(SCCS)が慎重に評価します。物質情報は定期的に更新されており、毒性研究の進歩から得られた新しいデータを考慮しています。物質の使用制限は、SCCS委員会による評価結果に基づきます。

最近、欧州委員会は、消費者安全科学委員会(SCCS)およびこの問題に関係する他の団体が発表した意見に基づき、化粧品に含まれる発がん性、変異原性、または生殖毒性(CMR)を有する化学物質の禁止リストを拡大しました。

最近になって化粧品への配合が禁止されたいくつかの成分について、以下で詳しく説明します。

1.ブチルフェニルメチルプロピオナール(リリアール) - 2022年3月1日から禁止成分リスト入り

2-(4-tert-ブチルベンジル)プロピオンアルデヒド(BMHCA、リスメラール、リリアール)、CAS番号80-54-6、INCI名ブチルフェニルメチルプロピオナールという物質は、化粧品および非化粧品で多くの調合物に用いられている香り成分です。現在、この物質はEU化粧品規則の付属書Ⅲに含まれていて、その濃度がリーブオン(すすぎ落とさない)製品で0.001%、リンスオフ(すすぎ落とす)製品で0.1%を超える場合は、成分表への記載が義務付けられています。

2020年5月、欧州委員会は、物質及び混合物の分類、表示及び包装に関する欧州委員会委任規則No.2020/1182(CLP規則(EC)No.1272/2008を改正したもの)を公表しました。このCLP規則改正で、ブチルフェニルメチルプロピオナールはRepr. 1B(生殖毒性、CMR区分1B)に分類されることになり、2022年3月1日から適用されます。

EU規則1223/2009によると、CLP規則によりCMRに分類される物質は使用禁止です。そこで2021年11月3日、欧州委員会は、最近CMRに分類された物質を欧州化粧品規則の付属書Ⅱに追加することを目的としたオムニバス法IV-規則(EU)2021/1902を公表しました。

規則(EU)2021/1902記載の通り、化粧品へのブチルフェニルメチルプロピオナール(リリアール)の配合は禁止です。この禁止規則は2022年3月1日から適用され、新製品だけでなく、EU市場に既に出回っている化粧品も影響を受け、製品の回収が必要となります。

最近、インターネット上でリリアール(ブチルフェニルメチルプロピオナール)について、たくさんの「恐ろしい」書き込みを見かけることがあるかもしれませんが、まだ慌てないでください。成分が禁止されるたびに、問題となる成分について悪く言うニュースがよく流れます。しかし、私たちは事態を抑え気味にとらえるべきと考えています。既に現在の法律で、非常に高いレベルで消費者の安全性が確保できるからです。毒性学がほとんどの人にとって馴染みの薄い科学であるという事実が、人々の毒性尺度のニュアンスの感じ方を、より複雑なものにしています。

欧州委員会がある成分を規制あるいは禁止する決定を下す理由を理解するには、法律行為の最終決定だけにこだわっていては不十分です。それが究極のもので、各人がそれに忠実に従わなければならないとしてもです。実際、各規則の背後には、既存のすべてのデータに基づいてその物質の安全性を評価する、多くの機関が関与するプロセスがあります。不確かな場合、あるいはデータが不足している場合は、常により制限的な決定を下します。そうすると、時に、実際には有害ではない成分を禁止物質に含めてしまう結果になったりするのです。

最終的な目標は、もちろん消費者の保護です。これが、ヨーロッパが消費者にとって世界で最も安全な市場と考えられている理由です。世界の他の多くの地域の規制当局が、ヨーロッパを規制を参考にしています。

(有害なものとしても分類されている)ある物質が本当に健康にリスクを与えるかはリスク評価で決定します。このリスク評価は、少なくとも50年の現代毒性学の進歩に従った手続きです。この手続きの過程で、発がん性、変異原性、または生殖毒性があると分類されている物質が、ある使い方では安全と判明することがあります。なぜでしょうか?ある物質が毒かどうかは用量、つまり使用量と適用方法によって決まるからです。

リリアール(ブチルフェニルメチルプロピオナール)のリスク評価には、つまり安全性評価調査書類を作成するためには、化粧品業界で禁止されている動物実験を行う必要があると思われます。そのような試験は実施できないので、本物質の安全性を証明することは不可能です。このように、安全性データを入手できなかったため、欧州委員会が禁止令を導入せざるを得なかったことになります。

2. ジンクピリチオン - 2022年3月1日から禁止成分リスト入り

ジンクピリチオンは、化粧品やパーソナルケア製品のフケ防止剤、抗脂漏剤、ヘアコンディショニング剤、防腐剤として用いられる芳香族亜鉛化合物です。また、ジンクピリチオンは、毛髪量、しなやかさ、光沢を増進させることで、あるいは物理的にまたは化学処理でダメージを受けた髪の毛の質感を改善することで、毛髪の外観や感触を向上させます。フケ、脂漏性皮膚炎、乾癬の抑制にも役立ちます。

本化合物はフケ防止剤として60年以上使用されており、これまではEU化粧品規則の付属書ⅢおよびⅤに記載されていました。使用が許されていました。

  • 防腐剤として使用しない場合、リーブオン(すすぎ落とさない)タイプのヘア製品に最大濃度0.1%(付属書III)
  • 防腐剤として使用する場合、リンスオフ(すすぎ落とす)タイプのヘア製品に最大濃度1.0%
  • 防腐剤として使用する場合、リンスオフ(すすぎ落とす)タイプの他の製品に最大濃度0.5%

2020年5月、欧州委員会は、物質及び混合物の分類、表示及び包装に関する欧州委員会委任規則No.2020/1182(CLP規則(EC)No.1272/2008を改正したもの)を公表しました。このCLP規則改正で、ジンクピリチオンはCMR Repr. 1B(生殖毒性)に分類されることになりました。2019年4月11日、本物質を例外としてリンスオフ(すすぎ落とす)タイプの製品にフケ防止剤として最大濃度1%まで使用し続けることができるよう、要望書が提出されました。

EU化粧品規制 第15.2条によると、化粧品へのCMR区分1Bの物質の使用は、以下の場合に例外的に許可される可能性があります。

  1. 食品法の一般原則と要件を策定し、欧州食品安全機関を設立し、食品安全問題の手続きを制定した2002年1月28日の欧州議会および審議会の規則(EC)No.178/2002で定義される食品安全要件に適合していること(1)。
  2. 代替物質の分析で文書化されているように、適当な代替物質がないこと。
  3. 製品カテゴリーの特定の用途での申請で、暴露の程度が既知であること。
  4. 化粧品への使用について、特にこれらの製品への暴露の観点で、他のソースからの全暴露量を考慮し、脆弱な人口集団を特別に配慮した上で、SCCSが評価して安全と判断されていること。

以上を見ると、カテゴリー1Aまたは1BのCMR物質は、代替物質の分析で文書化されているように適当な代替物質がないという条件を含め、すべての条件を満たした場合に、例外的に化粧品に使用できる可能性があります。しかし、リンスオフ(すすぎ落とす)タイプのヘア製品のフケ防止成分に適当な代替物質が存在しないことは確定事項にはなっていません。

そこで2021年11月3日、欧州委員会は、最近CMRに分類された物質を欧州化粧品規則の付属書Ⅱに追加することを目的としたオムニバス法IV-規則(EU)2021/1902を公表しました。

規則(EU)2021/1902記載の通り、化粧品へのジンクピリチオンの配合は禁止です。この禁止規則は2022年3月1日から適用され、新製品だけでなく、EU市場に既に出回っている化粧品も影響を受け、製品の回収が必要となります。

3. 他の物質 - 2022年3月1日から禁止

オムニバス法IVでは、リリアールとジンクピリチオンに加えて、以下の物質をEU化粧品規則の付属書Ⅱに追加すべきと定めています。

  • シリコンカーバイド繊維(直径3μm未満、長さ5μm超、アスペクト比3:1以上のもの)
  • トリス(2-メトキシエトキシ)ビニルシラン、6-(2-メトキシエトキシ)-6-ビニル-2,5,7,10-テトラオキサ-6-シラウンデカン
  • ジオクチルスズジラウレート、スタンナン、ジオクチル-、ビス(ココアシルオキシ)誘導体
  • ジベンゾ[def,p]クリセン、ジベンゾ[a,l]ピレン
  • イプコナゾール
  • ビス(2-(2-メトキシエトキシ)エチル)エーテル、テトラグリム
  • パクロブトラゾール
  • 2,2-ビス(ブロモメチル)プロパン-1,3-ジオール
  • フタル酸ジイソオクチル
  • アクリル酸2-メトキシエチル
  • N-(ヒドロキシメチル)グリシンナトリウム、[N-(ヒドロキシメチル)グリシン酸ナトリウムから放出されるホルムアルデヒド]
  • フルロクロリドン
  • 3-(ジフルオロメチル)-1-メチル-N-(3',4',5'-トリフルオロビフェニル-2-イル)ピラゾール-4-カルボキサミド、フルキサピロキサド
  • N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、メチロールアクリルアミド
  • 5-フルオロ-1,3-ジメチル-N-[2-(4-メチルペンタン-2-イル)フェニル]-1H-ピラゾール-4-カルボキサミド、2'-[(RS)-1,3-ジメチルブチル]-5-フルオロ-1,3-ジメチルピラゾール-4-カルボキサニリド、ペンフルフェン
  • イプロバリカルブ
  • ジクロロジオクチルスタンナン
  • メソトリオン
  • ヒメキサゾール
  • イミプロトリン
  • ビス(α,α-ジメチルベンジル)ペルオキシド

4. メチル-N-メチルアントラニレート(M-N-MA) - 日焼け止め製品および自然または人工の紫外線への暴露を目的として販売される製品への配合が2022年11月21日から禁止成分リスト入り

メチル-N-メチルアントラニレート(M-N-MA)は、N-メチルアントラニル酸のカルボキシル基をメタノールと縮合させて生成するメチルエステルです。化粧品では香料成分として機能します。本物質は純粋な香料組成物、シャンプー、石鹸、その他多くの種類の化粧品に使われています。これまでM-N-MAは、規則(EC)No.1223/2009で使用禁止や使用制限の対象になっていませんでした。

2022年2月1日、化粧品への物質メチル-N-メチルアントラニレートの使用について、欧州議会および審議会の、規則(EC)1223/2009を改正する2022年1月31日付けの委員会規則(EU)2022/135が、欧州連合官報に掲載されました。

付属書IIIにメチル-N-メチルアントラニレートが追加されました。これは、定められた条件以外では化粧品に配合してはいけない物質のリストです。

委員会規則(EU)2022/135によると、メチル-N-メチルアントラニレートは、以下の場合に限り使用が可能です。

  1. リーブオン(すすぎ落とさない)製品には、調製済み品に最大濃度0.1%
  2. リンスオフ(すすぎ落とす)製品には、調製済み品に最大濃度0.2%

さらに、日焼け止め製品および自然または人工の紫外線への暴露を目的として販売される製品へのメチル-N-メチルアントラニレートの使用は禁止です。

リーブオン(すすぎ落とさない)製品およびリンスオフ(すすぎ落とす)製品へのメチル-N-メチルアントラニレートのその他の使用条件は以下の通りです。

  1. ニトロソ化剤と一緒に使用しない
  2. ニトロソアミンの最大含有量50μg/kg
  3. 亜硝酸塩を含まない容器で保管する

以下の移行期間が終了しています。

  • 2022年8月21日以降、当該物質を含有して条件を満たさない化粧品はEU市場に上市してはならない。
  • 2022年11月21日以降、当該物質を含有して条件を満たさない化粧品はEU市場で入手可能な状態にしてはならない。

2023年 最新規制:

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