包装に関するEPRと欧州における化粧品販売者への影響

電子商取引を利用する消費者が4億5,000万人以上おり、高い購買力が存在する欧州は、化粧品の販売にとって魅力的な市場です。しかし、厳しい規制があるため、難しい市場でもあります。EUで最も複雑な法規制のひとつに、包装廃棄物に関するEPRと、国境を越えた電子商取引へのEPRの影響があります。本記事では、欧州で化粧品を販売しているか、または販売する予定がある場合に、包装廃棄物に関する法律について知っておくべきことをまとめました。

包装廃棄物に関する「拡大生産者責任」(EPR)とは?

拡大生産者責任(EPR)は、生産者に包装のライフサイクル全体を管理する責任を課す政策的アプローチです。これには、包装廃棄物の回収、リサイクル、安全な廃棄が含まれます。その目的は、廃棄物管理の負担を地方自治体から生産者に移し、生産者がより持続可能な包装を設計し、リサイクルを促進するような動機付けを与えることです。EPRは包装廃棄物全体の削減につながる経済的な動機付けにもなっています。

EPRプログラムには通常、生産者責任、回収インフラ、リサイクル目標、生産者からの資金拠出が含まれます。その目的は、包装廃棄物を削減し、リサイクルを促進することによって、より持続可能で循環型の経済を創出することです。

包装に関するEPRの歴史の概略

最初のEPR政策は、1991年にドイツで実施されました。これは「包装規則」(ドイツ語:Verpackungsverordnung)として知られていました。この法律は、EPRの原理が導入される上での重要なマイルストーンとなりました。包装規則は、包装廃棄物に対する強制的な生産者責任を導入し、生産者に回収とリサイクルという二つのシステムへの参加を義務付けました。

この政策は、その後、世界各国で導入されたEPRプログラムのモデルとなりました。EU包装廃棄物指令に採用され、EU加盟国のすべて、そして英国、スイス、ノルウェー、その他数ヵ国で導入されました。

その結果、すべてのEU加盟国は包装廃棄物に関する独自の法律を持つこととなり、それらはさまざまな面で互いに異なっているものです。それにより、特に国境を越えた電子商取引において大きな困難につながっています。本記事では、そのことについて後述します。

「生産者」という言葉が誤解を招く理由

EPR法の焦点は、一見すると包装の生産者のみに当たっているように思えますが、そうではないことを明確にしておくことが重要です。欧州のEPR法では、「生産者」という用語は、実際には包装される製品の製造業者または輸入業者を指しています。多くの場合、EPRを遵守する責任を負うのは化粧品ブランド自身です。あるいは、EU域内のさまざまな化粧品ブランドから製品を輸入・販売するオンライン販売業者に義務が及ぶ場合もあります。

本記事では以後、いくつかの実際の事例について掘り下げ、どの事業者がEPRの要件を遵守する義務があるのかについて分析します。しかし、一貫していることが一つあります。それは、責任を負うのが、何も包んでいない包装材の生産者であることはほとんどなく、むしろ包装された商品を市場に流通させる事業者であるということです。

事業がEPRの影響を受けるかどうか

EUで化粧品を販売するすべての企業が、自動的にEU包装廃棄物指令の影響を受けるわけではありません。本記事をお読みになっている皆さんの事業にとっても、皆さんの顧客にとっても、法的義務につながる可能性のあるさまざまなシナリオがあります。そして、国境を越えた国際的な電子商取引の世界では、EPR法は特に混乱をもたらすものです。最も一般的なケースを見てみましょう。

企業対消費者、企業対企業それぞれにおけるEPR

個人消費者に直接販売しているのか(B2C)、それとも流通業者や小売業者など、あなたの製品を販売する他の事業者に販売しているのか(B2B)を考慮することが重要です。EPR法はそれぞれのケースで異なり、あなたの義務に影響を与える可能性があります。

B2C販売を行う場合、販売先となる各国のEPR法を熟知することが極めて重要です。個人消費者がEPR遵守の責任を問われることはないため、販売者として遵守を確保する責任が生じます。

小売業者や流通業者へのB2B販売では、同一国内での販売と、他国の企業顧客への国境を越えた販売を区別することが不可欠です。EPR義務は、関係するそれぞれの国における具体的な規制によって異なる場合があります。

EU域外企業、EU域内企業における比較

上述したように、包装廃棄物に関するEPR義務は主に(現地の)製造業者または輸入業者に課せられます。EUを拠点とする化粧品ブランドは通常、少なくとも自国のEPR法の影響を受けますが、EU域外のブランドは通常、直接消費者に販売する場合、またはEU加盟国の1つ以上に子会社がある場合にのみ、EUでのEPR登録義務を負います。まず後者の場合、EUにおける子会社は現地のEPR義務を履行する義務があります。

上述した、企業が消費者に直接販売する場合が特に気を付けなければならないことです。企業の拠点がEU域内になくても、EU域外から発送した荷物がEU域内の消費者のもとに届けられる場合は、当該企業は顧客の居住国のEPR要件を満たさなければなりません。

EU域内におけるさまざまな国の間の取引についても同じことが言えます。すべての加盟国は主権国家であり、それぞれ独自の法律を有しています。したがって、フランスの企業がドイツの顧客に販売する場合、ドイツの包装法に従わなければならないのは、直接消費者に販売する場合、またはドイツに登録事業所がある場合のみです。フランスの企業がドイツの流通業者に販売する場合(B2B)、輸入者であるドイツの流通業者がドイツのEPR法に従う義務があります。

欧州のマーケットプレイスでの化粧品販売

2022年から、いくつかのEU加盟国は、オンライン・マーケットプレイスを法規制範囲に含めることを念頭に、包装廃棄物法およびEPR法の調整を開始しました。Amazonなどのマーケットプレイスは、それ以来、プラットフォーム上の出品者が有効なEPR登録を有しているかどうかを確認するために、出品者の「EPR登録番号」の収集を開始しています。

とはいえ、マーケットプレイスがEPR番号の提出を求める前であっても、またAmazonが出品者のEPR登録番号をまだ要求していない国においても、マーケットプレイスを通じて消費者に直接販売する場合、出品者は現地のEPR法に従う法的義務があります。

ドロップシッピングの場合、誰がEPRの影響を受けるのか?

ドロップシッピングは、小売のフルフィルメント手法で、オンライン販売者は販売商品を在庫として保管しません。その代わりに、顧客の注文と出荷に関する詳細をサードパーティーのサプライヤーに転送し、そのサプライヤーが直接顧客に商品を出荷します。

取引が国境を越えたものである場合、EPR義務は顧客へ請求書を送る売り手、すなわちドロップシッパーにあります。ドロップシッパーとしてのEPR義務を果たすためには、サードパーティーのサプライヤーから包装に関するすべてのデータを入手する必要があります。

一般的事例

このトピックはかなり抽象的なものですので、実際によくあるケースを見てみましょう。

事例1:日本の化粧品製造業者がフランスの化粧品ブランドに製品を販売

多くの美容製品がアジアの製造業者によって生産され、欧州の化粧品ブランドによって販売されています。この事例では、日本の製造業者はフランスの企業に製品を輸出し、フランスの企業がフランス(および場合によっては他の国)でのEPR義務を果たさなければなりません。

事例2:日本の化粧品ブランドが、自社のウェブショップやAmazonを通じて、フランスの消費者に商品を販売

販売が国境を越えた消費者への直接販売である場合、EPRの義務は常に販売者側にあります。この場合、日本のブランドはフランスのEPRスキームに登録しなければなりません。

事例3:事例1のフランスの化粧品ブランドが、EU全域の小売業者や流通業者に製品を販売

このような状況では、フランスの化粧品ブランドというより、むしろ各EU加盟国における小売業者や流通業者が、それぞれの国のEPR法の影響を受けることになります。しかし、フランスの化粧品ブランドは、輸出量を減らしてフランス国内にも流通させる調整を行うこともできるため、その場合はフランスのEPRスキームに申告します。小売業者や流通業者がフランス国内にある場合、販売数量をフランスのEPRスキームに報告するのは、依然としてフランスの化粧品ブランドの責任です。これは、その化粧品ブランドが最初の輸入者であり、フランス領内に包装済みの製品を持ち込んだ最初の事業者であるためです。

事例4:アメリカの美容ブランドが、フランスの流通業者や小売業者に化粧品を販売

アメリカのブランドがフランスに販売事業所を持ち、その販売事業所が自社製品の輸入・再販を行うのでなければ、この場合も義務はフランスの輸入業者にあります。

EPRと包装リサイクル表示義務

このように、非欧州ブランドが欧州EPR法の直接的義務を負わない場合でも、イタリアの表示規制に従ったり、パッケージにフランスのTrimanロゴを付けたりしなければなりません。そうでなければ、これらの製品をEU域内の小売業者や流通業者が販売することはできません。

上記の事例からわかるように、(EPR義務を回避する)最も簡単な方法は常に、流通業者を介した販売ネットワークを構築することです。従うべき規制が最も多いのは、自社ウェブショップやオンライン・マーケットプレイスを通じて国際的に消費者に直接販売する場合です。

欧州における化粧品の包装に関するEPR義務

もしご自身がEPRの影響を受ける場合は、国によって義務が異なることにご留意ください。欧州諸国における義務についてはほとんどの場合、一般的に、下記の4段階にまとめることができます。

1. 生産者登録簿への登録

すべての国ではありませんが、ほとんどのEU加盟国では、透明性を高めるために「生産者登録」や「廃棄物登録」を行っています。EPRの影響を受ける企業はすべて登録しなければなりません。しかし、国によって方法は大きく異なります。

例えばドイツでは、各企業はLUCID包装登録を行うことが義務付けられています。

フランスでは、EPRスキームが契約相手を国のAdeme-registerに登録するため、このステップを完全にスキップして直接ステップ2に進むことができます。

一方、オーストリアでは、外国企業は国内の生産者登録簿に直接登録することはできず、包装廃棄物に関する公認代理人を任命する必要があります。これはオーストリアに所在する自然人または法人で、外国の生産者から責任と義務を引き継ぎます。

2. EPRスキームまたはリサイクル・スキームとの契約

技術的には、全国規模の認定リサイクル・スキームを独自に立ち上げ、各国の義務をすべて独力で果たすことも可能ですが、その労力は並大抵ではありません。したがって、単に各国に確立されたEPRスキームと契約を結ぶのが理にかなっています。

EPRスキームは、多くの場合、国レベルで廃棄物回収とリサイクルを管理する非営利組織です。それらはEUのリサイクル目標に沿った適切な廃棄物管理を確保するものです。

3. 年次、四半期または月次データ申告

EPRスキームに加入すると、市場に投入する包装の量を申告することが求められます。国や数量によって異なりますが、これらの申告は暦年ごと、四半期ごと、場合によっては毎月行わなければなりません。

包装量の正しい申告を可能にするためには、サプライチェーン内の関連データをすべて収集する必要があります。まず、使用している各種包装の材質と重量を知ることが重要です。紙製包装材とプラスチック製包装材の合計重量をトン単位で把握することを要求する国もあれば、もっと詳細なデータを要求する国もあります。プラスチック製包装に使用されているポリマーの種類は?市場に投入したLDPEは何キログラム?PPは何キログラム?というように、包装廃棄物に関する統計は、詳細であればあるほど良いと言えます。

包装の種類を区別することも重要です。一次包装、二次包装、三次包装それぞれの重量を申告する必要がある場合があります。一次包装とは、製品を直に包装するもののことです。二次包装とは、例えば製品の4つのユニットを一つにまとめるのに使うプラスチック製フィルムのような包装のことです。三次包装とは、輸送や配送の際に保護するための包装のことで、例えばダンボール箱や輸送袋などがあります。

4. リサイクル費用の支払い

市場に投入する包装の量に応じて、包装のリサイクル料金を支払う必要があります。EPRスキームは、こうした料金を廃棄物の回収と管理の財源としています。料金は明らかに材料の重量と種類によって決まっており、包装を全体的に減らし、リサイクル可能な選択肢を用いるように促す、一種の動機付けとなっています。

国によっては、リサイクルのための教育活動など、追加の義務がある場合もあります。しかし、こうした義務は通常EPRスキームによって満たされ、化粧品ブランドには直接影響はしません。このような活動のための資金は、生産者やブランドが支払うEPR料金に含まれています。

EUにおける包装に関するEPRの今後の展望

各加盟国の主権のため、EUにおけるEPR法は非常に複雑となっています。近年、野心的なリサイクル目標によって、EPRスキームへの圧力が強まる結果となっています。また、オンライン・マーケットプレイスやフルフィルメントプロバイダーなど、新たに市場を監視する役割を担う存在の登場によって、化粧品ブランドやEコマース販売者が有効なEPR登録を行わずに製品を違法に販売することは難しくなっています。

EUは最近、新たな包装廃棄物規制の草案を発表しました。それにより、一定の調和がもたらされるとされていますが、各加盟国でのEPR登録という基本原則と、その結果としての複雑さについては変わらない状況です。

About the author

Andreas Landes, Co-Founder & CEO Ecosistant GmbH