化粧品に含まれるマイクロプラスチックと現時点で知るべき情報
マイクロプラスチックとは何か
プラスチックによる環境汚染は、幸いにも長年にわたって国際的な議論の的となってきました。
海に流出したプラスチックと聞いて、多くの人々がすぐ思い浮かぶのはプラスチック製のボトルや袋であり、まずマイクロプラスチックを思い浮かべる人はあまりいません。
マイクロプラスチックは大変小さく、目では見えないほど小さいものもあります。
小さすぎて汚水処理施設のろ過処理では回収できず、直接、海に放出されてしまいます。そして最低でも数百年ほど海に留まるため、環境や健康に及ぼす影響について関心が高まっています。
そうとは知らずにマイクロプラスチックを食べた魚が、最後には私たちの食卓に並んでいるのです。
しかし、マイクロプラスチックとは正確には何を指すのでしょうか?この記事でこれからご説明する通り、(特にEUの)関係当局がこの点で共通の見解を定めようとしているものの、国際的なレベルでの共通の定義は(まだ)ありません。
最初の草案によるおおまかな定義によると、マイクロプラスチックとは水に溶けない固体の微粒子で、生分解性に乏しく、最大でも5マイクロメートル(µm)、小さなものでは1 µm程度の大きさのものと言えます。もう少し詳しく見ていきましょう。
環境を汚染しているマイクロプラスチックの起源
そうしたプラスチック微粒子は小さな球状であり、化粧品に含まれているか、そうでなければ適切に廃棄されなかった、より大きなプラスチック片の崩壊によって主にもたらされます。
そのようなプラスチック片は、大気現象や浸食によって自然にゆっくりと崩壊しますが、それは低分子への分解を伴うわけではありません。例えば、一本のタイヤは数十億個とは言わないまでも数百万個の球状微粒子にまで崩壊します。それらは肉眼では見えないくらい小さなものですが、海洋生態系にとっては有害な汚染物質となります。
合成繊維でできた衣類の繊維や、私たちが日常的に使っているその他の製品に含まれる合成素材についても忘れてはなりません。
したがって、マイクロプラスチックは2種類(一次的マイクロプラスチック、二次的マイクロプラスチック)に分けることができると言えます。一次的マイクロプラスチックは、合成繊維製の衣類の洗濯や運転時のタイヤの摩耗に由来する微粒子や化粧品の含有物が環境中に放出されたもので、一般的には5 mm以下の大きさです。プラスチックの球状微粒子は、その研磨作用を目的としてクリームクリーナー、歯磨き粉、スクラブ、シャンプー、シェービングフォーム、洗剤など一部の消費者向け製品にも添加されています。一次的マイクロプラスチックは、海洋中に存在しているプラスチック総量の15~31%を占めています。
一方、二次的マイクロプラスチックは、ビニール袋やボトルなど、より大きなプラスチック製品の崩壊によってもたらされます。それらは海洋中に存在しているマイクロプラスチックのうち約68%を占めています。
化粧品にマイクロプラスチックが使われる理由
そうした化粧品中のマイクロプラスチック成分については、肌から角質を除去したり肌を洗浄する目的で、スクラブが洗い流すタイプの化粧品に使用されていたり、多くのメイクアップ化粧品にもマイクロプラスチック成分が含まれています。
ポリエチレンやポリプロピレンは化粧品に使用される最も一般的なプラスチックで、女性用、男性用問わず多くの化粧品に含まれています。肌角質の除去やメイクアップ以外にも、ソープ、クリーム、ジェル、歯磨き粉などの製品も挙げることができます。
そうした製品は、よく自然や環境に配慮した製品という宣伝文句で売られていることを、残念ながら指摘しなければなりません。
そうした化粧品に含まれるマイクロプラスチックは、(上述した通り)海洋中のマイクロプラスチックの起源として最大の割合を占めるわけではありませんが、大変多くの人々が毎日のように使っているので、徐々に蓄積し、海や湖といった水域の汚染や生態系の破壊に大きく関与しているのです。
EU マイクロプラスチック関連法令の最新状況
世界中の海域に存在するプラスチックに関する議論が重ねられた結果、ここ最近の数年間でいくつかの前進が見られました。
2015年に、欧州化粧品工業会(Cosmetics Europe)は全加盟企業に対して、2020年までにすべての化粧品でマイクロプラスチックの使用を中止するよう呼びかけました。
イタリアなど国民の理解の進んだ国々では、すでに状況は大きく前進しています。2017年、EUより先に、イタリアは2018年予算法(no. 205 of 27 December 2017)によって、マイクロプラスチック成分を含有する、剥離・洗浄作用を有する洗い流すタイプの化粧品の取引を禁止することを決定し、2020年1月1日から施行されました。その間、EUではメディアが強い圧力をかけたことで、イタリア以外でも各加盟国でマイクロプラスチックの使用を制限する対策の導入が進みました。そうした対策は、5 mm以下の非水溶性固体プラスチック微粒子を含む、剥離・洗浄作用を有する洗い流すタイプの化粧品を対象としたものです。
(洗い流すタイプではない)メイクアップ化粧品や天然由来の微粒子は、環境中に残留しにくいと考えられ、化学物質または生理活性成分を放出したり、動物の食物連鎖に影響を及ぼしたりすることはないと言えます。
同時に、EUにおけるプラスチック削減のより一般的な戦略の一つとして、欧州委員会は、あらゆる種類の製品を対象として、意図的に添加されるマイクロプラスチック微粒子の使用に関して、REACH下での規制書の作成を、欧州化学物質庁(ECHA)(およびリスク評価委員会(RAC)、社会経済分析委員会(SEAC))に指示しました。そうした点のすべての取り組みについて、以下の表に時系列順にまとめました。今後のおおまかな予定も含んでいます。
規制書の作成意思表明 | 2018年1月17日 |
根拠に基づく情報提供の照会 | 2018年3月1日~5月1日 |
関係者向けワークショップ | 2018年5月30日~31日 |
規制書案の提出 | 2019年1月11日 |
附属書XVに関する公開協議 | 2019年3月20日~9月20日 |
RAC意見書 | 2020年6月 |
SEAC意見書案 | 2020年6月 |
SEAC意見書案に関する協議 | 2020年7月1日~9月1日 |
欧州委員会への最終意見書(統合版)提出 | 2021年2月 |
欧州委員会による附属書XVII(規制案)への修正案 | 30 August 2022 2022年8月30日 |
各加盟国当局との協議および投票 | 2022年~2023年 |
欧州理事会・欧州議会による精査 | 採択前(3ヶ月間) |
規制の採用(合意に至った場合) | 要確認 |
ご覧の通り、規制案はすでに提示されており(リンクをクリックすると読むことができます)、それによって特定の危険有害な化学物質、調剤、物品の製造、上市および使用の制限に関するREACH規則 1907/2006の附属書XVIIが実際に修正されることになり、欧州連合官報の発行から20日後に発効となります。
この規制案では、マイクロプラスチックを含む製品を構成する化学物質それ自体が市場で取引されてはならないものであるケースや、好ましい性質を製品に付与するために合成ポリマーの微粒子が重量比で0.01%以上の濃度で添加されているケース(これがほぼ禁止理由になります)について述べられています。
特に化粧品メーカーに関係するポイントは、主に以下の2点です。
「合成ポリマー微粒子」については、以下のように一定の定義付け
微粒子中に含まれ、そのうち重量比で1%以上を構成するか、または微粒子の連続的な表面の層を構成し、そのうち重量比で1%以上を占める固体のポリマーで、以下の条件のどれかを満たすもの。
(a) 当該微粒子のすべての寸法が5 mm以下であること(これに該当する合成ポリマー微粒子の濃度が、既存の分析法やそれに伴う参照文献では決定できない、0.1 µm以上のものとする)。
(b) 当該微粒子の長さが15 mm以下かつ長さ/直径の比率が3を超えること(これに該当する合成ポリマー微粒子の濃度が、既存の分析法やそれに伴う参照文献では決定できない、0.3 µm以上のものとする)。
加えて、当該の定義から除外できるポリマーの基準について、以下の通り定める。
(a) 自然界で発生する重合反応の結果として得られるポリマーで、化学修飾されていないもの。
(b) 本附属書の別紙に従って分解性を有すると証明されるポリマー(すなわち、当該の別紙にはある成分が分解性を有するかどうか、そしてその分解性の程度を決定するのに必要な調査法について記述される)。
(c) 別の別紙に従って、2 g/Lを超える水溶性を有すると証明されるポリマー。
(d) 化学構造中に炭素原子を含まないポリマー
製品の種類によって本規制案に導入される、本規制の発効からの移行期間に関する考え方
i) 香料のカプセル化に使用される合成ポリマー微粒子:6年
ii) 規則(EC)No 1223/2009の附属書II~VIの前文のポイント(1)(a)で定められる「洗い流すタイプの製品」:4年間(ただし当該製品が本パラグラフのポイントi)に該当するか、または合成ポリマー微粒子を研磨剤として、すなわち剥離、研磨または洗浄の目的で使用するために含むもの(「マイクロビーズ」)を除く)
iii) 規則(EC)No 1223/2009の附属書II~VIの前文のポイント(1)(e)で定められるリップ用品、当該規則の附属書II~VIの前文のポイント(1)(g)で定められるネイル用品、当該規則の範囲内のメイクアップ化粧品:12年間(ただし当該製品が本パラグラフのポイントi)またはii)に該当するか、またはマイクロビーズを含む場合を除く)。加えて、本ポイントについて、合成ポリマー微粒子を含む製品のサプライヤーは、以下の記載を行わなければならないものとする:「本製品にはマイクロプラスチックが含まれています。」(当該物質または混合物が市場で取引されている加盟国の公用語で記載すること。ただし当該加盟国が別段の定めをする場合は除く)
iv) 規則(EC)No 1223/2009の附属書II~VIの前文のポイント(1)(b)で定められる洗い流さないタイプの製品:6年間(ただし当該製品が本パラグラフのポイントi)またはiii)に該当する場合を除く)
したがって、この規制は主にマイクロビーズ(角質除去など剥離を目的として使われる研磨作用を持つマイクロプラスチック)、ラメ、カプセル化香料を通じて化粧品産業に影響を及ぼすでしょう。水溶性ポリマー、天然ポリマー、そしていわゆる生分解性ポリマーや使用の段階ではマイクロプラスチックの形状ではないポリマーは、欧州委員会の最初の草案を読むと、この規制案の対象外です。
2020年(将来の規則について策定が行われていた時)に発行されたRAC意見書によると、いくつか例外が存在する見込みで、それは具体的には化粧品部門に関連するものです。このことは、当該意見書のポイント5bで述べられているように、ある物質がマイクロプラスチックに該当するとしても、当該規制が適用されない場合があることを意味します。実際、皮膜形成機能のために添加されるマイクロプラスチック微粒子は使用時点で存在しなくなるため(例えばそれらは水と接触して「溶解」「融合」または永続的に「膨潤」し、界面を失うか、または微粒子として考えられる寸法を超えるため、もはや微粒子とは見なされなくなります)、そうした機能については、当該規定の適用は制限されるでしょう。
具体的なINCI名(INCI:化粧品成分の国際命名法)でいくつかの機能を説明する前から、あるマイクロプラスチックが先述した例外に該当するかどうかを先験的に判断することは困難です。さらにECHAは、成分のINCI名を見ただけでは、ポリマーがマイクロプラスチックであるかどうかを結論づけることはできないことを認めています。その情報を提供するのは主に原材料のサプライヤーの責任であり、使用するものに慎重であり続けることは化粧品ブランドの責任です。
本規制案によってマイクロプラスチックと見なされる可能性のある成分
INCI名辞書によると、化粧品に含まれるマイクロプラスチックは、例外扱いとなる可能性のある成分も含めて、以下のような非網羅的なリストに照らして特定できるかもしれません。
ポリマー | 機能 |
ナイロン12(ポリアミド12) | 増量、粘度調整、不透明化(例:シワ対策クリーム) |
ナイロン6 | 増量剤、粘度調整 |
ポリ(ブチレンテレフタレート) | 皮膜形成、粘度調整 |
ポリ(エチレンイソテレフタレート) | 増量剤 |
ポリ(エチレンテレフタレート) | 研磨、皮膜形成、毛髪固定、粘度調整、外観(例:泡風呂のラメ入り入浴剤、メイクアップ) |
ポリ(メチルメタクリレート) | 有効成分送達用吸着剤 |
ポリ(ペンタエリスリチルテレフタレート) | 皮膜形成 |
ポリ(プロピレンテレフタレート) | 乳化安定剤、皮膚コンディショニング剤 |
ポリエチレン | 研磨、皮膜形成、粘度調整、粉末結合剤 |
ポリプロピレン | 増量剤、増粘剤 |
ポリスチレン | 皮膜形成 |
ポリテトラフルオロエチレン(テフロン) | 増量剤、滑り調整剤、結合剤、皮膚コンディショニング剤 |
ポリウレタン | 皮膜形成(例:フェイスマスク、日焼け止め、マスカラ) |
ポリアクリレート | 粘度調整 |
アクリルコポリマー | 結合剤、毛髪固定、皮膜形成、懸濁化剤 |
ステアリン酸アリル/酢酸ビニルコポリマー | 皮膜形成、毛髪固定 |
エチレン/メタクリレートコポリマー | 皮膜形成 |
エチレン/アクリレートコポリマー | 耐水性日焼け止めの皮膜形成、ゲル化剤(例:口紅、スティック、ハンドクリーム) |
ブチレン/エチレン/スチレンコポリマー | 粘度調整 |
スチレン/アクリレートコポリマー | 外観、カラー付きミクロスフェア(例:メイクアップ) |
トリメチルシロキシシリケート(シリコーン樹脂) | 皮膜形成(例:カラーコスメ、スキンケア、UVケア) |
しかし、ある成分がマイクロプラスチックとして定義されているかどうかを情報提供するため、あらゆるサポートを行うべきなのは、常にその成分のサプライヤーであることをご留意ください。したがって化粧品業界へのご提案としては当初から変わることはなく、それはこの将来の規則による定義に当てはまるかもしれない成分の特質について情報を求め始めることです。
マイクロプラスチックに関して何かご不明な点などございましたら、弊社までお問い合わせください。化粧品業界における、この大きな課題にどう対応できるか、お客様がご納得いくまでお手伝いさせていただきます。